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コペルくん的読書日記

誰かと本の感想を語り合いたい寂しめなコペルくんです

舟を編む(三浦しをん、2011)★★★★ー0017

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辞書は、言葉の海を渡る舟だ。(略)ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは漠然とした大海原をまえにただずむほかないだろう。

 本書は、直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』や、映画化や漫画化もされている『風が強く吹いている』でおなじみの三浦しおん氏による、辞書編纂に携わる人たちを描いた「言葉を大切にしたくなる」心温まる作品です。この作品は、松田龍平宮崎あおいオダギリジョー等をキャストとして映画化されています。

コメント

 本書は、おばあちゃんに薦めてもらったので読みました。「こういう感じで仕事に打ち込めるってかっこいいよね」と薦めてもらってたのですが、本書を手にしたのは実に1年半も前のことでした(おばあちゃんごめんなさい)。そのかっこよさは本記事の余談のところで少し触れるとして、今回は「言葉を大切にする」ということについて考えていきたいと思います。ゼロ秒思考(前記事-0003)では、「言葉の中心的意味とその揺らぎを捉える」ことが大切であると話されています。せっかくですので、今回はそれについてもう少し深く掘って考えてみます。

①なぜ言葉を正しく使う必要があるのか
②言葉を正しく使いこなすとはどういうことか
③どのようにすれば言葉を正しく使えるようになるのか
余談:本書の装丁をめぐって

 

①なぜ言葉を正しく使う必要があるのか

 そもそもなぜ言葉を正しく使う必要があるのでしょうか。大きく2つです。一つは「考えをより深めるため」、もう一つは「他人と正確に意思疎通をするため」です。

 考えるということが言葉と密接に関係しているということは以前のゼロ秒思考の記事で述べました。思考は言葉によってなされている、という話です。だから不鮮明にしか理解していない言葉で組み立てられた思考は、必然的に不鮮明なものになってしまっていて、その状態はいわゆる「よく考えきれていない」状態だ、ということになります。だから考えを深めるためにも、まずその道具となる言葉を正確に使える必要があるのです。

 また、コミュニケーションにおいても言葉を正確に使うことは大切です。例えば仕事やプライベートでも、「わかったつもり」が、いざ蓋を開けてみたら……というケースがよくあります(私もこれで何度ご迷惑をおかけしたことか)。もちろん信頼関係とか話し方などがコミュニケーションロスの原因の場合となることもあると思います。しかし、まずそれ以前に、道具となる言葉を正確に使えていないということでは全くお話になりません(私のことです)。言葉の不鮮明さが認識の不一致を呼び起こし、大変な事態となる原因であるかもしれないのです。だからお互いの認識を合わせるために、まず言葉の意味について正確に理解して、それを周りと共有する必要があるのです。

  このように、「考えをより深めるため」ためにも、「他人と正確に意思疎通するため」にも、言葉を正確につかいこなす必要があるのです。

 

②言葉を正しく使いこなすとはどういうことか

 では、正しく言葉を使いこなすとはどういうことなのでしょうか。それが冒頭で軽く触れた「言葉の中心的意味と揺らぎをとらえる」ということだと思います。以下ゼロ秒思考から引用します。

「責任感」は、人によっては、「何がなんでも絶対に実行しなければならないという思い。自分の名誉や命にかえても絶対に実行してみせる」というレベルから、「やらないといけないことになっているから、なんとかできる範囲でやろうかな」というレベルまである。もっとひどい場合は、言葉の意味についてほとんど考えないようにしていることも十分あり得る。

このように、すべての言葉にはその地域、時代、コミュニティの大半の人が通常理解している中心的な意味と、個人やサブコミュニティ間の振れ幅がある。また、言葉によって、振れ幅が狭いものと広いものがある。

ということを踏まえれば、自分や他人の言葉が正確には何を意味しているか、何を意図して発言されたものか、意識的に言っているのか、それとも無意識なのか、をいつも考え、より深く理解することが必要になる。

 このように、言葉を正しく使いこなすためには、言葉の中心的意味と揺らぎをとらえようとすることが必要だとわかります。

 

③どのようにすれば言葉を正しく使えるようになるのか

 では、どのようにしてその「言葉の中心的意味と揺らぎ」をとらえていくのか。こればっかりは、地道に語彙を正確にストックし続けていく他ないかと思います。めんどくさいですが、これを積み重ねることによって長期的に時間を短縮する(つまり理解の質と速さが上がる)ことを期待しています。とはいえ、今後、これをもっと楽にする仕組みを構築するのが個人的な課題です。今のところ僕の場合あまりにも知らないことが多すぎますので笑、その入口を減らすべく「気になった」語句しか調べないようにしています。脳が自動的に自分のレベルや頻出度等を鑑みてくれていると信じているからです。そのほか、以下に具体的な方法論としてポイントとなりそうなことを列挙してメモしておきます。

  • 読書中に「気になった」単語があったら辞書をひく
  • それを文脈と合わせて脳内でイメージする
  • 類義語とどう違うかを仮説立てて検証する(外延的に理解)
  • 言葉を因数分解しようとする(要件探し)
  • イメージを図示する(主に抽象理解のサポート)
 

余談:本書の装丁をめぐって

 私は通常本を読む際、邪魔なのでカバーや帯を全て取っ払って読みます。今回も同じように取っ払ってみたのですが、とても驚きました。野暮になりますので、どう驚いたかは内緒です。笑 しかし、こういう細かいところにもちゃんと気がいき届いていることは実に気持ちのいいことです。また、読み終わったあとカバーを再び着せるのですが、やっぱりカバーもいい。これも作品をお読み頂ければおそらくわかるかと思いますが、なにせ物語とリンクしているところもありますので、そういう楽しみもという方は、文庫ではなく単行本の方をオススメいたします。

 今回の物語の登場人物たちは精魂込めて辞書を作り込んでいるわけですが、本書の装丁にはそこに通じる精神を感じます。尊敬する方が「魂は細部に宿る」ということをおっしゃっていましたが、なんとなく、その言わんとすることの一端を感じた気がしました。「仕事をする」ということは、極論ですが、もしかしたらこのように細部を詰めるということなのかもしれません。そういう「仕事」には、そこに携わる人が「いて」、それを感じることによって互いに「生きている」ことを更新していく(参考:前記事ー0016)。主人公の馬締の仕事ぶりからも伝わってきますが、内容だけでなくこの本全体を通して、そういう「仕事」をしていきたいなと考えさせられました。

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