人間ぎらい(モリエール、1952)★★★★★ー0036
ああ!こんな残酷な仕打ちがまたとあろうか。こんなひどい仕打ちを受けた人間がまたとあろうか。ああ!おれは正当な理由があって、この女に憤怒の炎を燃やしているのに、恨みを言いに来たおれが、かえって喧嘩を売られているのだ。この女は、おれの苦しみ、おれの疑惑をさんざあおり立てて、おれに嘘までもまことと思い込ませながら、鼻高々になっているのだ。だのに、いまだに卑怯な俺の心は、愛着の鎖が断ち切れずにいる。相手を不埒なやつながら無我夢中に想い込んで、小癪なやつだと軽蔑してかかることもできずにいる。
17世紀フランスの俳優、かつ劇作家のモリエール氏による1冊です。誠実であろうとするがゆえに俗世間との調和を失い、恋にも破れて人間ぎらいになってゆくアルセストの悲劇を、涙と笑いの中に描いた、作者の性格喜劇の随一とされる傑作です。
あらすじについては、朝日出版社のページがわかりやすかったのでそちらにお任せします。
■課題意識
人たらしになりたいという想いが強いのですが、どうも僕は人間音痴みたいなので、人間への理解を深めようと本書を手に取りました。何か人間についての気付きがあったらいいなという、わりかし軽いスタンスです。
■気付き
①自分を傷つける勇気がないと、結果的にその方が勇気がないという印象を与える
みんなの話があんまり下品なので、とても相手になっていられないなんかと言いだして、やっぱり難癖をつけようとしますの。そして自分は腕組みをしながら、おれの考えていることはとてもわかるまいといったような顔をしながら、みんなの言っていることを、さも憐れむように見くだしていますのよ。
これは主人公アルセストが想いを寄せる女性セリメーヌが、その場にいない人たちの悪口を言っているシーンです。一旦、その行為は置いておいて、その中身に言及したいと思います。人を見下す人って、実際賢くない、ただの人間音痴なんだと思います。本当に賢い人はその輪の中に飛び込んで、そのバカさを一緒に楽しめる人なんですよね。最近、僕はその勇気みたいなものが出せなかったことがあって、とてもささりました。人間力上げたいです。
②表面上はいい顔をしているけど、裏では何を思っているのかわからない
今度は上記の引用「みんなの話が〜」での、セリメーヌのその行為(その場にいない人たちの悪口を言う)に焦点を当てて考えたいと思います。
しかし、そうしてあなた方にやっつけられている人が、一人でもここへ顔を見せようものなら、あなた方はあたふたと出迎えて、手を差しのべ、お世辞の接吻をして、御用はなんでも承わるなんかと、さも神妙な振る舞いをするにきまっているのだ
主人公アルセストは、セリメーヌとその他爵位の人たちと世間話をしているところをこう言ってやりました。まさしくそうなんですね。
昨日の「論語と算盤」ではないですが、結局中身が大事と言えど、その中身を推し量る材料は表層にあるその人の「言動」なわけなので、良く思われる、というか上手くやっていくためには、最低限うわべ良くしておく必要はあるわけです。
だからこそ、これは他人にも言えて、今その人の本性が出ていることはまずありえない、そういうスタンスを仕方なしと受け入れて、人とコミュニケーションを取っていくほかなさそうです。だから、表面上はいい顔をしているけど、裏では何を思っているのかわからないと気を引き締め、油断せず相手にとって良いこととは何かを考え続け、提供し続けていく必要がある気がしています。そう感じました。
③人の自負心を滅多に攻撃するもんではない
僕があいつのソネットを結構だと言わなかったので、一生あいつに恨みに思われようという騒ぎなんだ。人間というやつぁ、どうせあんな風にできてるんだ。みんなが自負心に駆られて、あんな行動をとってしまうのだ。そしてそれが、彼等にとっては、直情径行となり、正義となるのだ。
オロントは新作の詩をアルセストにぜひ評して欲しいと、それはもうかなり腰を低めて頼み込んで、それを朗読して聞かせたんですね。ですがアルセストは容赦なく酷評しまくったので、オロントはブチ切れました笑。挙句、オロントはアルセストを訴え、アルセストは追われる身になってしまいました。
結局、意見をくださいというのは「褒めてください」ということなんですよね、たぶん。見せかけの低姿勢な言動に惑わされず、その人が結局何を求めているのかをしっかり考えて、対応していかないとなー、とつい思わされました。具体的な方針は、人の輪の中に入ってもがくという他に、こういう書籍を読んで疑似体験を多く積んでいけたらと思っています。